ガナ鯖ふらり旅/改めてよろしく
進化したばかりのヒースと、そのご主人様サホの、ある昼下がりの一コマです。
先に言っておきますと、ぐだぐだです(´・ω・`)
部屋中をばさばさと飛び回るヒースを見上げ、サホは本日何度目か分からないため息をついた。
本を読もうにも、まったく集中できない。
ヒースはリブリオという種に属している。鳥と竜の特性を併せ持つ体つきをしていて、愛情深く穏やかな性質の個体が多い。
ヒースもまた、一族の特性を受け継いで優しい気性に育ったのだが。
優しすぎたのかもとの性質なのか、妙に甘えん坊になってしまった。それが悪いとは言わないが、戦っている最中でさえすぐ側まで近寄ってくる。密着されると、裏拳で顔を殴ってしまうわ、羽で動きが阻まれるわで、あまりいいことがない。
そんなサホの内心を知るはずもなく、ヒースは窓辺へと羽ばたいていった。
淡い紫の体が昼下がりの陽光を宿し、やわらかな輝きを灯す。輪郭に沿って広がる光の列は、真昼の空に浮かぶ細い雲の筋を思わせた。
細く開けた窓から吹き込む風は、甘い潮の香りがした。
閉じた本をベッドに置いたサホが見つめる先で、翻るカーテンの側の止まり木に、ヒースはそっと足を伸ばした。
が。
足を下ろした瞬間、簡単な木ねじで止められただけの枝が外れてしまった。翼をひらめかせて舞い上がるヒースの足下で、支柱がぐらりと傾ぐ。支柱はレースのカーテンをかすめて転がり、枝は黒い板を敷きつめた床に跳ね返り、堅い音をたてた。
「あんた何やってんの……」
呆れまじりの声を向けると、ヒースはしょぼくれた顔で振り返った。青い瞳が小刻みに揺れている。
「自分の大きさ自覚しなさいよね」
ヒースはうなずくように首を動かすと、慎重に床に降り立った。押し出された爪がフローリングの隙間を引っかけ、大きな体を支える。首を引き起こし、床に翼を置いた状態で体を安定させると、ゆっくりと首を伸ばして止まり木を元に戻し始めた。
ついこの間までは抱きしめられるほどの大きさだったというのに、今やサホの背と並ぶ大きさになっている。それで今まで使っていた枝に留まろうとしても、無理というものだ。
(新しいの作んなきゃダメだなぁ)
今の止まり木は、生まれたばかりのリブリオ・八雲にあげることにしよう。アレンに言えば余っている資材をくれるはずだ。それでヒースの分を作る。
とは言っても、作るのはサホではない。大工仕事が壊滅的に苦手なため、鋸だろうがカンナだろうが、使うと大変なことになる。
嫌な顔をするだろうが、エルカナに頼むことになるだろう。
苦労して止まり木を組み直したヒースは、やれやれといった様子で身震いした。尾を引きずるように向きを変えると、軽く床を蹴り、風をつかんで舞い上がる。
少し前までは、壁に掛けてあるろうそくに鼻先を近づけてからサホの元へとやってきたが、大きくなってからはそれもなくなった。
くるくると小さく喉を鳴らしながらベッドに舞い降りると、翼を背の方へ折りたたみ、足を曲げるようにしてサホの膝に頭を載せる。
「痛くないのー?」
膝小僧にヒースのあごの骨が当たっているが、彼女は気にするようすもない。甘えるようにあごを押しつけてくる。指先で眉間をくすぐると、満足そうに目を細め、そのまま閉じてしまった。
膝からじんわりと広がるぬくもり。尖った耳をそっとなでると、安心しきったようにふにゃりと垂れた。
甘えん坊なヒースは、本当はサホの足の上で眠りたいはずだ。大きくなる前は、あぐらを掻いたサホのくるぶしに小さな足を載せ、ももを枕に眠るのが好きだった。
先日、前のようにサホの足の上で眠ろうとしがたヒースは、体の大きさを忘れて羽ばたき、サホを殴り倒してしまった。こっぴどく怒られて懲りたのだろう、膝にあごを載せるだけで、ここ数日は満足している。
枕元の本に手を伸ばして広げると、しおりがはらりと床に落ちた。視線で追ったサホは、取り上げようとして思いとどまる。
ヒースを起こしては可哀想だ。
自分の指をしおり代わりに、サホは読書を再開する。
変光星随一のトラブルメーカー・テツ缶が部屋に飛びこんでくるその瞬間まで、ふたりきりの平和な時間が途切れることはなかった。
本を読もうにも、まったく集中できない。
ヒースはリブリオという種に属している。鳥と竜の特性を併せ持つ体つきをしていて、愛情深く穏やかな性質の個体が多い。
ヒースもまた、一族の特性を受け継いで優しい気性に育ったのだが。
優しすぎたのかもとの性質なのか、妙に甘えん坊になってしまった。それが悪いとは言わないが、戦っている最中でさえすぐ側まで近寄ってくる。密着されると、裏拳で顔を殴ってしまうわ、羽で動きが阻まれるわで、あまりいいことがない。
そんなサホの内心を知るはずもなく、ヒースは窓辺へと羽ばたいていった。
淡い紫の体が昼下がりの陽光を宿し、やわらかな輝きを灯す。輪郭に沿って広がる光の列は、真昼の空に浮かぶ細い雲の筋を思わせた。
細く開けた窓から吹き込む風は、甘い潮の香りがした。
閉じた本をベッドに置いたサホが見つめる先で、翻るカーテンの側の止まり木に、ヒースはそっと足を伸ばした。
が。
足を下ろした瞬間、簡単な木ねじで止められただけの枝が外れてしまった。翼をひらめかせて舞い上がるヒースの足下で、支柱がぐらりと傾ぐ。支柱はレースのカーテンをかすめて転がり、枝は黒い板を敷きつめた床に跳ね返り、堅い音をたてた。
「あんた何やってんの……」
呆れまじりの声を向けると、ヒースはしょぼくれた顔で振り返った。青い瞳が小刻みに揺れている。
「自分の大きさ自覚しなさいよね」
ヒースはうなずくように首を動かすと、慎重に床に降り立った。押し出された爪がフローリングの隙間を引っかけ、大きな体を支える。首を引き起こし、床に翼を置いた状態で体を安定させると、ゆっくりと首を伸ばして止まり木を元に戻し始めた。
ついこの間までは抱きしめられるほどの大きさだったというのに、今やサホの背と並ぶ大きさになっている。それで今まで使っていた枝に留まろうとしても、無理というものだ。
(新しいの作んなきゃダメだなぁ)
今の止まり木は、生まれたばかりのリブリオ・八雲にあげることにしよう。アレンに言えば余っている資材をくれるはずだ。それでヒースの分を作る。
とは言っても、作るのはサホではない。大工仕事が壊滅的に苦手なため、鋸だろうがカンナだろうが、使うと大変なことになる。
嫌な顔をするだろうが、エルカナに頼むことになるだろう。
苦労して止まり木を組み直したヒースは、やれやれといった様子で身震いした。尾を引きずるように向きを変えると、軽く床を蹴り、風をつかんで舞い上がる。
少し前までは、壁に掛けてあるろうそくに鼻先を近づけてからサホの元へとやってきたが、大きくなってからはそれもなくなった。
くるくると小さく喉を鳴らしながらベッドに舞い降りると、翼を背の方へ折りたたみ、足を曲げるようにしてサホの膝に頭を載せる。
「痛くないのー?」
膝小僧にヒースのあごの骨が当たっているが、彼女は気にするようすもない。甘えるようにあごを押しつけてくる。指先で眉間をくすぐると、満足そうに目を細め、そのまま閉じてしまった。
膝からじんわりと広がるぬくもり。尖った耳をそっとなでると、安心しきったようにふにゃりと垂れた。
甘えん坊なヒースは、本当はサホの足の上で眠りたいはずだ。大きくなる前は、あぐらを掻いたサホのくるぶしに小さな足を載せ、ももを枕に眠るのが好きだった。
先日、前のようにサホの足の上で眠ろうとしがたヒースは、体の大きさを忘れて羽ばたき、サホを殴り倒してしまった。こっぴどく怒られて懲りたのだろう、膝にあごを載せるだけで、ここ数日は満足している。
枕元の本に手を伸ばして広げると、しおりがはらりと床に落ちた。視線で追ったサホは、取り上げようとして思いとどまる。
ヒースを起こしては可哀想だ。
自分の指をしおり代わりに、サホは読書を再開する。
変光星随一のトラブルメーカー・テツ缶が部屋に飛びこんでくるその瞬間まで、ふたりきりの平和な時間が途切れることはなかった。
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プロフィール
HN:
サホ
年齢:
42
性別:
女性
誕生日:
1982/10/20
職業:
求職中。ライフが削れていきます
趣味:
読書、ネトゲ
自己紹介:
時たま出没するものの、休息期間が長すぎる複合ナヤ。現在、小説家目指して頭振り絞ってます。
残念ながら求職中。
クラメンは家族です。まったくINできなくて愛想尽かされていようと愛は変わりません(`・ω・´)ゞ
基本的にチキンでビビリ屋ですが、妙なところばかりが図太くて困ります。
残念ながら求職中。
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基本的にチキンでビビリ屋ですが、妙なところばかりが図太くて困ります。
そらまめのアズール
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